「あなたは独りではない」ヨハネ8:21-36
荒瀬 牧彦 牧師(めぐみ教会) イエスは言われた。「わたしは世の光である。わたしに従う者は暗闇の中を歩かず、命の光を持つ」。 しかしそれを聞いたファリサイ派の人たちは、「あなたは自分のことを自分で言っているのだから、真実ではない」と言った。目の前に差し出された光を、彼らは拒んだのである。 妙な連想だが、以前見た子猫救出の動画を思い出した。下水溝に落ちて鳴いている小さな猫。助け出そうと溝に体をいれている人が手を伸ばすが、猫は奥へと後ずさりしてしまう。助けようとしている人の気持ちはよくわかる。「君を助けたいのだ!この手は君を助けられる。救いの手であることを信じておくれよ!」。 猫ちゃんは、見ている者を散々いらいらさせた後に、ついに救出の手に身を委ねて助け出された。ああ良かった! でも、あの猫ちゃんと違って、人間は頑なである。イエスが懸命に語りかける声を信じようとしない。イエスはそれでも人間を見捨てず、さらに強い言葉で重ねて語りかける。 「『わたしはある』ということを信じないならば、あなたたちは自分の罪のうちに死ぬことになる」とイエスは告げる。「わたしはある」は、ギリシア語では「エゴー・エイミ」。(英語にすれば“I am”)。「わたしはある」というのは不思議な表現であるが、どういうことだろう。 ヨハネ福音書において、これはイエスがご自分の正体を現わす時の重要な定式だ。「わたしは世の光である」、「わたしは道である、命である、真理である」、「わたしはぶどうの木である」、「わたしは良い羊飼いである」など、皆エゴー・エイミ+比喩である。それがここでは、何の比喩も用いることなく、ストレートにそのまま「わたしはある」といわれる。 威張っているのではない。命を得てもらいたいから、何とかしてわかってもらうために、力を尽くして語りかけているのだ。<エゴー・エイミ・・・父がわたしを、あなたたちのために遣わされたのだ。父はわたしと共にある。そして私は父が語るままに語っている。父の思うところをわたしは行う。だから、「わたしはある」とは、父が共におられるということだ。父はわたしを独りにしてはおかない。> 実は、イエスがあなたに「エゴー・エイミ」と告げることには、重大な意味がある。父は、父が遣わした御子イエスと共におられる。御子イエスを独りにしてはおかない。あなたがそのことを信じ、受け入れる時、御子はあなたと共におられる。あなたを独りにしてはおかない。 つまりこういうことだ。父が子のうちにおられるように、子はあなたのうちに宿る。父、子、あなたは一つにつながる。イエスを通して、あなたは天の父のうちにある。それが「永遠の命」である。「あなたは独りではない。」教会はそのことを告げるために奔走するのである。 北九州でホームレス支援の働きをしておられる奥田知志牧師が『もう、ひとりにさせない』という本に、野宿生活をしていたHさんとの出会いを書いている。深い孤立の中にいた彼は、「自分は邪魔な存在だから」といって入院の勧めを拒み続けた。やがて路上で倒れ、救急搬送され、間もなく死亡。無念さを抱えながら、彼の葬儀で奥田牧師は言うのだ。「Hさん、あなたは邪魔者ではありません」。ヨハネ福音書14章の「あなたがたのために、わたしは場所を備えに行く」というイエスの言葉を読み、「誰が邪魔な人に住まいを準備するでしょう」と奥田牧師は、天のHさんに語る。イエスはあなたのために奔走して、十字架にのぼって、天へのぼって、場所を用意したんだよ。あなたは邪魔な存在ではないよ。あなたは独りではないよ・・・。 一人の人にこれだけ深く関わっていく奥田さんやその仲間の方々の心に感動を覚える。しかし、これは奥田さんたちだけの特別な務めだろうか。そうではないだろう。わたしたちもまた、出会った人たちにこのことを告げ、共に生きていくよう召されているのだ。 どうしたら、「独りではない」と確信をもって言えるのだろう。イエスをみつめよう。イエスに聞こう。イエスの「わたしはある」のゆえに、わたしたちは「独りではない」者として生きる。
by higacoch
| 2016-06-30 14:55
| ヨハネ福音書
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