「安心して行きなさい」 マルコ福音書 5:25-34
唐沢 健太 牧師 (国立のぞみ) 先週、息子が熱を出し学校を休んだ。風邪がうつらないように二階の子ども部屋にほぼ隔離状態の生活だった。3日目に「一人で寝ているのはつらい」とハラハラと涙を流して泣くのであった。病気で苦しむ時に一人でいるつらさ、不安、孤独感を私たちも経験したことがあるだろう。 その苦しみを12年も味わっていた女性が今日の聖書の物語の主人公だ。女性特有の出血が止まらない彼女は、多くの医者にかかったが、「ひどく苦しめられ、全財産を使い果たしても何の役にも立たず、ますます悪くなるだけであった」(26節)。病気を治すためにあらゆる努力をしたが、期待しては裏切られ続けた12年だった。病気が病気だけに医者にかかる度に恥ずかしい思いをしたことだろう。なかには心ない大した治療もせず法外な治療費を要求する医者もいたと言われている。彼女は全財産をその病気の治療のために費やした。しかし、よくなるどころか「ますます悪くなるだけであった」。 しかも、出血を伴うこの病気は律法によって「汚れ」とみなされ、彼女は人との接触を禁じられていた。みんなが楽しそうに集まる場所へも行くことができなかった。礼拝に参加することもできなかった。何度自分の人生を嘆いたことだろうか。夢破れた人生、自らの運命を恨めしく思ったこともあっただろう。 そんな中で彼女は「イエスのことを聞いた」(27節)。希望が失望に変わる経験をし続けた彼女は、イエスことを聞きても何も思わず、聞き流してしまってもおかしくはないと思う。期待するだけ後のショックが大きい。だから期待はしない。12年間の闘病生活でそのような自己防衛的な気持ちになってもおかしくはない。 しかし、彼女は違った! イエスのことを聞いてから、「この方の服にでも触れればいやして(救って)いただける」と思い続けていた。このお方にかけよう! 彼女は勇気を出して群衆の後ろからイエスに近づき、後ろから主イエスの衣に触れた。「すると、すぐ出血が止まって病気がいやされた」。 12年間女性を苦しむ続けた病が治った。めでたし、めでたし! この聖書の物語が「信仰によって病気が治った女性」の話ならそのようにここで終わるだろう。しかし、聖書は単に「病気が治ったお話」を語っているのではない。彼女は病気の癒しはもちろんだが、それ以上に「救い」を求めていたのだ。 もしこのまま彼女がこの場を立ち去ったらどうなるだろうかと想像する。確かに病気は治った。しかし、彼女の新しい人生は決して容易なものではなかっただろう。12年間、孤独にあった彼女が社会生活に復帰するのは並大抵のことではない。しかも全財産を失ってもいる。彼女が健やかに生きるためには「病気のいやし」以上の救いが必要だったのだ。 彼女にとって病気のいやし以上に必要だったのは、主イエスとの人格的な出会いだ。主イエスとの人格的な交わりこそ12年間孤独の中に置かれていた彼女に必要な癒しであった。彼女はついにイエスの前に進み出て「すべてをありのまま話した」。彼女はすべてをイエスにさらけ出した。涙しながらの告白だったかもしれない。12年の苦しみをすべて彼女は主の前に注ぎ出したのだ。そして主はそのすべてを受け止め、聞いてくださった。「娘よ。あなたの信仰があなたを救った」。まさに彼女の救いはイエスとの交わりの中にあったのだ。 「安心して行きなさい。もうその病気にかからず、元気に暮らしなさい」。口語訳では「すっかりなおって、達者でいなさい」とある。「達者」とは「真理に達した者」というのが元々の意味らしい。キリスト者にとってはこっちの方がなかなか味わい深い訳のように思える。私たちは主イエスに出会い、主イエスとの交わりにおいて「達者」でいることができるのだ。女性はイエスと別れた後の人生で変わらず困難なことがあったに違いない。だけども、彼女はイエスに出会った者として、イエスに「安心して行きなさい」と送り出された者として、「達者」に暮らしただろう。 先日、のぞみ教会で行われたオープンチャーチで教会員の方々が「教会ってどんなところ」というライブトークを行った。その中で一人の姉妹が「信仰を持って変わったことはありますか」との質問に「信仰を持ったからといって何も変わらない。目の前の困難な現実は何一つ変わらない」と応答した。信仰を持ったからバラ色の人生が約束されるわけではない。病気と無縁になるわけでもない。これまでと同じように大変なこと、困難なこと、厳しい現実は相変わらず続く。「だけどもすべてが違う。……なぜか大丈夫と思える」と証された。私たちも「達者でいる」ことができるのだ。主イエスが「安心して行きなさい」(生きなさい!)と送り出してくださるのだから。Go in peace, Live in Peace!
by higacoch
| 2013-06-30 15:52
| マルコ
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